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福岡地方裁判所小倉支部 昭和50年(ワ)504号 判決 1976年5月11日

原告

高森進

ほか一名

被告

豊沢俊彦会社

ほか三名

主文

一  被告豊沢俊彦、同中村啓一、同中村初夫は各自、原告高森進に対し金三九〇万六、八三一円、原告高森和子に対し金四一五万六、八三一円および右各金員に対する昭和四九年一二月九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告高森進の右被告ら三名に対するその余の請求および原告らの被告東洋砂利販売株式会社に対する各請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告高森進と被告豊沢俊彦、同中村啓一、同中村初夫との間においては、同原告に生じた費用の一五分の一四を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告高森和子と右被告ら三名との間においては全部同被告らの負担とし、原告らと被告東洋砂利販売株式会社との間においては全部原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告らに対し、それぞれ金四一五万六、八三一円およびこれらに対する昭和四九年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

訴外亡高森信一(以下亡信一という)は、次の交通事故によつて死亡した。

(ア) 発生時 昭和四九年一二月八日午前九時五分

(イ) 発生地 北九州市戸畑区丸町一丁目八番二六号先道路

(ウ) 加害車 小型乗用自動車(北九州五五に八三五二)

運転者 被告豊沢俊彦

(エ) 被害者 亡信一

(オ) 態様 原告高森進運転の小型貨物自動車(以下被害車という)が前記発生地に停止した直後、その後部に加害車が激突し、その衝撃により、被害車の助手席に同乗していた亡信一が車外に放り出され、頸髄上部損傷、頭部外傷、左足部裂創、右肋骨々折、左頤部裂創により即死した。

2  (責任原因)

(ア) 被告豊沢は、前方注視義務を怠り、脇見運転した過失によつて本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、

(イ) 被告中村啓一(以下被告啓一という)は自動車登録原簿上での加害車の使用名義者で、これを日常通勤その他に使用していたものとして、被告中村初夫(以下被告初夫という)は、啓一の父でこれと同居し、加害車を購入する際にはその代金全額を支払つているなど加害車の所有者と目され、これを被告啓一に使用させていたものとして、被告東洋砂利販売株式会社(以下被告会社という)は、被告初夫が会社発行株式の大部分を有する代表取締役、その他の取締役も初夫の妻と義父とで構成され、被告啓一がその従業員として勤務する同族会社で、その実態は被告初夫の個人企業として同人と実質的に同一性を有し、加害車のガソリン代等の経費を支払つており、被告啓一が加害車を通勤・出張等に使用していたから、加害車の運行支配をしその利益を享受していたものとして、いずれも加害車を自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により、

本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

3  (損害)

ア 亡信一の逸失利益 金一、一六一万三、六六二円

(死亡時) 満一一歳(昭和三八年八月二四日生)

(推定余命) 六一・一〇年(昭和四八年簡易生命表)

(稼働可能年数) 四九年間(満一八歳から満六七歳まで)

(平均賃金) 一か月九万四、六〇〇円(昭和四九年度労働白書による昭和四八年度の全労働者平均賃金)

(控除すべき生活費) 右収益の二分の一

(中間利息の控除) 年五分の割合による四九年のホフマン式係数二〇・四六一

(計算)94,600円×0.5×12×20.461=11,613,663円

原告らは亡信一の両親で相続人の全部である。その相続分に応じ亡信一の賠償請求権を相続したが、その額は各五八〇万六八三一円ずつとなる。

イ 治療費 七八〇円(原告進が支出)

ウ 葬祭料 五〇万円(同右)

エ 原告らの慰藉料

亡信一は原告らの長男で、性格は素直明朗、学業優秀で学級委員をつとめる等原告らはその将来を期待する気持が大きかつた。それだけに長男を失つた原告らの悲しみは筆舌につくしがたく、慰藉料は各三〇〇万円が相当である。

オ 損害の填補

原告らは自賠責保険から本件事故による損害金として進が五〇〇万七八〇円、和子が五〇〇万円を、また原告進は被告豊沢から葬祭料として五〇万円を受領しているので、右損害額からこれを控除する。

カ 弁護士費用

原告らは、被告らが任意支払をしないので、本訴追行を原告訴訟代理人に委任し、そのため手数料、謝金等の弁護士費用として七〇万円の連帯債務を負担した。

4  (結論)

よつて原告らは被告らが各自原告両名に対し各金四一五万六、八三一円およびこれらに対する亡信一死亡の翌日である昭和四九年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

同2のうち、(ア)の事実は否認する。すなわち事故当日は小雨あがりで道路がしめつていたため、スリツプし被害車に衝突したもので、不可抗力による事故である。(イ)の事実のうち、被告啓一の運行供用者としての責任だけを認め、その余の被告初夫、被告会社の責任は争う。たしかに、被告初夫は啓一の父親で同居し、加害車の代金を支払つてはいるが、所有者は啓一であり、同居家族用として使用したこともない。また被告会社の役員構成は原告ら主張のとおりであるが、被告初夫は別に個人としてクレーン船を所有して砂利採取業を営んでおり、被告会社はこれとは完全に独立した法人である。被告会社が加害車のガソリン代金を支払つてはいるが、これは会社名義で購入すると値引を受けられるためにすぎず、被告啓一からは右立替金の支払を受けているし、啓一は被告会社の従業員でもないから、被告会社は、加害車の運行につき、これを支配し、その利益を享受した事実はない。

請求原因3の事実のうちオだけ認め、その余は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生について

請求原因1の事実はすべて当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  成立に争いのない甲第六号証の一ないし五、第七、第九号証、原告高森進本人の供述によれば、本件事故現場付近は丸町二丁目方面から高峰方面に向つてゆるい下り坂で、逆S字型の曲線道路になつていたこと、当時アスフアルト舗装の路面は降雨のため湿潤していたこと、被告豊沢は加害車を時速約六〇キロメートルで運転して、この曲線道路を下つて来たところ、車輪をスリツプさせて道路右側部分に進入し、そのまま右側通行中、前方に二台の駐車々両を発見し、これとの衝突を避けるため慌てて左急転把の措置をとつたことから再度滑走状態におちいり、このとき道路左側に停止していた被害車を発見したがハンドル操作もままならないままこれに激突し、本件事故となつたことが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。以上の事実に徴すれば、被告豊沢は、当時の道路状況にかんがみ、スリツプ等を警戒し、減速のうえ進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があつたことは明らかである。本件事故は被告豊沢が右注意義務を怠り、漫然時速六〇キロメートルで進行した過失によつて発生したといわざるを得ない。

2  被告啓一が、自己のため加害車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

3  被告初夫が、同居中の長男である被告啓一のために加害車の購入費全額を支払つてこれを買い与えたことは、当事者間に争いがなく、証人岩本清の証言、被告初夫本人尋問の結果、日石伊藤忠株式会社中央給油所からの回答を総合すれば、被告初夫は砂利採取運搬船第二栄運丸を所有して砂利採取業を営み、被告啓一をクレーン士として乗船・勤務させていたこと、啓一は加害車をレジヤー用のほか右通勤用にも使用し、そのガソリン代は被告初夫が負担していたこと、被告初夫は啓一と生計を共にし、啓一の月給を一応一〇万円に決めてはいたものの、小使銭しか渡していなかつたことなどの事実を認めることができる。以上の事実によれば、被告初夫は本件事故について自賠法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を負うものと解するのが相当である。

4  したがつて被告豊沢は民法七〇九条により、被告啓一と被告初夫は各自賠法三条によつて、連帯して後記損害を賠償すべき義務がある。

5  原告らは、被告会社も、加害車を自己のため運行の用に供していたものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

たしかに、被告会社は被告初夫を中心とする同族会社であること当事者間に争いがないが、被告啓一は父初夫が個人として所有する第二栄運丸で稼働しているものであることは前示のとおりであるし、証人岩本清の証言、被告初夫本人尋問の結果によると、右第二栄運丸と被告会社との間にはその業務の上では直接のつながりはなく、それぞれ別個独立に経営されていること、加害車のガソリン代は被告会社がその購入先に支払つているが、これは会社が購入すると若干値引して貰えるために便宜上そうしているだけで、後日被告初夫が被告会社に返済する約束であつたこと、右ガソリン代の立替払以外には被告会社としては加害車について何らの関係もないことが明らかであるから、右同族会社である事実だけからでは被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたものであるとはいえないし、本件全証拠によつても、被告会社が加害車の運行を支配し、利益を享受したことを首肯させる事実を認定することはできない。

したがつて、原告らの被告会社に対する本訴請求は、その余の点について触れるまでもなく失当といわなければならない。

三  損害

1  亡信一の逸失利益

成立に争いがない甲第三、第四号証、第五号証の一ないし五に原告高森進本人の供述を総合すれは、亡信一は昭和三八年八月二四日生の健康な男子で、事故当時小学校五年生として学業成績も良く、原告ら両親としても少くとも高校までは進学させて、家業の建築業に就かせたいと考えていたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

以上の事実に徴すると、亡信一は高校卒業程度の学歴をもつて社会に出、満一八歳から満六七歳までの四九年間は稼働し、昭和四九年度労働白書による昭和四八年度の全労働者平均賃金である月九万四、六〇〇円を得ることが出来たものと認められる。そして生活費についてはその収入の二分の一があてられたものと認められる。

そこで右期間の逸失利益は、次のとおり一、一六一万三六六三円(円未満切捨、以下同じ。)と算定される。

94,600×12×1/2×20.461=11,613,663

(20.461は11歳の児童に適用する新ホフマン係数)

原告両名の各本人尋問の結果によると、原告らが亡信一の両親でその相続人の全部であること明らかであるから、原告らは右信一の逸失利益の二分の一ずつの金五八〇万六、八三一円あて相続したことになる。

2  治療費

原告高森進の供述によれば、亡信一の治療費として七八〇円を原告進が支払つたことが認められる。

3  葬祭料

原告進の供述によれば、亡信一の葬式費用として五〇万円ぐらいを進が支出したことが認められるが、このうち金二五万円を超える部分については、社会通念上、亡信一の事故死に伴なう葬儀費用としては相当の範囲をこえるものと考えるので、右部分は本件事故と相当因果関係をもつ損害とは認めがたく、結局金二五万円だけを損害と認める。

4  原告らの慰藉料

前認定の本件事故の態様、亡信一の年齢・学業成績その他諸般の事情を考えると、原告らが本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰籍料としては、原告両名各三〇〇万円ずつが相当である。

5  損害の填補

以上の損害を合計すると、原告高森進は九〇五万七、六一一円、同和子は八八〇万六、八三一円となるが、そのうち原告進に対しては五五〇万七八〇円、同和子に対しては五〇〇万円の損害の填補がされていることは当事者間に争いがないから、残額は、原告進が三五五万六、八三一円、同和子が三八〇万六八三一円となる。

6  弁護士費用

原告進本人の供述によれば、原告らが本訴追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その費用として三五万円を支払い、裁判終了後に三五万円を連帯して支払う約束をしていることが認められる。本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告らが被告らに対し負担させうる弁護士費用は原告両名各三五万円ずつが相当と認められる。

四  以上のとおり、被告豊沢、同啓一、同初夫は各自、原告高森進に対し金三九〇万六、八三一円、原告高森和子に対し金四一五万六八三一円と右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和四九年一二月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるから、この限度で原告の本訴請求を認容し、その余(すなわち原告進の右被告三名に対する請求の一部と、原告らの被告会社に対する請求)は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤精一)

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